誰も傷つかない本物のラグジュアリーを。ami-tsumuli(アミツムリ)デザイナーの寺本恭子さんが辿り着いたデザイン哲学とは

 
ニット帽子ブランド「ami-tsumuli」のデザイナーとして活動する寺本恭子さん。
 
ラグジュアリーが好きで、ファッションデザインの世界に入り、その後祖父が経営をしていた吉川帽子(株)を継ぎます。
 
はじめは従来のラグジュアリーの考え方をベースにしていた寺本さんですが、あることをきっかけにその価値観に疑問を持つように。
 
それが2013年にami-tsumuliで環境に配慮したエシカルライン「ami-tsumuli white label」を立ち上げることに繋がります。
 
寺本さんの価値観を変えた出来事、そして、今持っている「ラグジュアリー論」に迫ります。
 

インタビューイー
寺本恭子
ami-tsumuli(アミツムリ)デザイナー
ニット帽ブランドami-tsumuli(アミツムリ)デザイナー。2013年に真のラグジュアリーを目指して、「ami-tsumuli white label」を立ち上げる。現在はカナダ・モントリオール在住。

 
 

納得がいく素材を使うということ

 
──なぜ、エシカルライン「ami-tsumuli white label」を立ち上げたのでしょうか
 
ami-tsumuliというブランド自体は2004年に立ち上げたのですが、エシカルラインを立ち上げたのは、素材の背景にはストーリーがあることを知ったことがきっかけでした。
 
具体的に素材の背景を知ったのは、10年ほど前に、ある幼稚園のママ友と交わした何気ない会話からです。
 
彼女はウールを着ないと言います。
 
動物愛護の観点でファーを着ない人がいるのは知っていましたが、ウールを着ないのは聞いたことがありませんでした。
 
よくよく調べてみると、とてもショッキングな事実に出会います。
 
ウールは、約1万年前から人間が使用し始めたとのことでしたが、私はウールが何で、どのように採られたのかという知識がなかったのです。
 
少しでも安くいいものを求めたいというニーズの中で、消費者が見えないところで羊に負担がかかっていることを知りました。
 
さらに調べてみると、羊だけではなく、カシミヤをはじめ、様々な動物に負担がかかっている事実に出会います。
 
私は、昔からラグジュアリーが好きで帽子のデザインなどもやってきました。
 
自分の中では、本当に良いラグジュアリー素材を使っていたつもりでした。
 
ただ、動物の負担に気がついてからは、それは本当のラグジュアリーなの?と心から楽しめないようになってしまったんです。少しの後ろめたさと言いますか。
 
自分の贅沢のために、誰かが泣いている。
 
そんなことにならないためにも、納得がいく素材を使っていこうと決めて、2013年にエシカルラインをスタートさせ、それが今に繋がっています。
 

本物のラグジュアリーを求めて

 

 
──寺本さんの中でラグジュアリーの定義が変化したと思うのですが、今は何が「本当のラグジュアリー」だと考えていますか?
 
「自分が幸せになり、周りも幸せになるもの」です。
 
もっと言うと、周りと自分との境目がないと感じています。
 
周りのために自分が我慢するのも違いますし、自分が贅沢をするために周りを犠牲にするのも違うと考えています。
 
「地球は自分の家の庭だ」っていう感覚に近いのではないでしょうか。
 
自分が何かをするために、庭を汚して平気な人はいませんよね。それが地球規模になっただけだと思うんです。
 
また、エシカルかどうかだけではなく、もちろんデザインや作りの緻密さも重要です。
 
私は製品には素材や職人さんのエネルギーが宿ると考えているのですが、本物のラグジュアリーはそこに乗っているエネルギーが違います。いいエネルギーを纏っているプロダクトを使った方がいいじゃないですか。
 
だからこそ、「自分も周りも幸せになるもの」が本当に贅沢なもので、ラグジュアリーだと考えています。
 

天然素材と製造方法へのこだわり

 
──本物のラグジュアリー論、すごく考えさせられます。実際にその哲学を元にどのような活動をされているのでしょうか。
 
私は可能な限り生産現場を見に行くようにしています。
 
ファーストコレクションでは、オーガニックコットンを低農薬のバラで染めた製品を作りました。既にアメリカ・テキサス州のオーガニックコットンの畑は視察済みでしたが、さらに新潟のバラ園まで足を運び視察しました。
 

 
バラも低農薬で作っている新潟のバラ農園から仕入れて、そのバラをボタニカルダイ®︎という技術で染めています。
 
天然染料が90%以上の染め方で環境負荷も低く、色落ちもしないので、昔から気に入っています。
 
──ボタニカルダイ®︎、初めて聞きました。他の帽子にも使っているんでしょうか?
 
他にも、桜やカーネーションで染めたものなど。
 
また、今年から初めてメンズラインを作っていて、この帽子はネイビーですが、こちらは植物の中で唯一黒色が出せるログウッドという木で染めています。
 
ログウッド染め
 
昔から使われている技術で、化学染料ができる前は、ログウッドでピアノの鍵盤なども染めていたんですよ。
 
──昔ながらの自然に寄り添った技術はいいですね!そちらの少し刺繍が入った帽子はどのような経緯で作られたんでしょうか。
 
こちらはインドのオーガニックコットン畑を見に行った際に、出会った女の子達と一緒に作ったコレクションです。
 
インドのNPOと共同で作成したコレクション
 
インドでは児童労働が1つの社会問題。その農園では、NPOに保護された女の子たちが読み書きを習いながら、手に職をということで、簡単な縫い物をしていたりするのですが、その子たちとコラボして作ったんです。
 
私は直接支援するのが苦手で、支援するくらいなら、一緒にやりたい!と思って、コラボすることにしました。
 
このコレクションは、インドの女の子たちに刺繍してしてもらったんです。
 

──支援じゃなくてコラボするっていう考え方が素敵ですね。ホームページを見るとヴィーガンのラインもありましたが、こちらはどのような考えがあるのでしょうか?
 
私は食事がヴィーガンで、普段の生活ではレザーの靴など、動物製品も使用するのですが、モントリオールには、ヴィーガン・コンセプトも広まっているので、ウールや動物の製品は使用したくない人が多くいます。
 
その人達が冬にどんな帽子をつけるのかというと、化学繊維のものになるんです。
 
それだったら天然素材で環境にも優しいものを提供したいなと考えて、始めたのがヴィーガンライン。オーガニックコットンを起毛させることで、コットンでありながら、暖かさをプラスしています。
 


 
本来、コットン製だと冬は寒くて使えないのですが、起毛させてるので、冬物にも使えると好評なんです。
 

「マザーアース」という考え方

 
──寺本さんにとって、環境保護とものづくりのバランスはどのように考えていますか?
 
難しいところですが、環境保護は大切だけど、環境保護が目的になってはいけないとと思っています。
 
英語では「マザーアース」っていう表現がありますよね。
 
日本語で言うと、母なる大地になりますが、環境と私たちの関係も似たものかなと考えています。
 
例えば、お母さんが傷つかないように行動する。これは当たり前じゃないですか。
 
でも、お母さんが喜ぶことを四六時中する。こんなことは、母親は望まないと思うんです。
 
私自身も母親になったからわかる部分もあるのですが、母親の一番の願いは、子供たちが幸せであること。
 
「お母さんのために何かをする」っていうのは得てして、母が望んでいることではなかったりするんですよね。自分のためにそう考えているのは可愛いんですが(笑)
 
なので、母から搾取するのは違うけど、母親に大きな迷惑をかけないのであれば、その中で自分の自己実現や、自分がやりたいこと、幸せに感じることをするのが大切だと思います。
 
どのようにバランスをとっているかという質問からはズレますが、私はそのように考えています。
 

辿りついたデザイン哲学

 
──いろんなことに挑戦して、考え方も形成されていった部分があると思います。今、寺本さんが持たれているデザイン哲学を教えていただけますか。
 
私は元々ラグジュアリーファッションが好きで、それで家業を継いでからニットにオートクチュールの考え方を組み合わせてデザインをしています。それこそ、コンセプトが「オートクチュールとのオマージュ」とあるように。
 
それプラス、エシカルな素材を使用しているのが現時点です。
 
オーガニックコットン畑
 
だから素材にはこだわりを持って、可能な限り自分の目で見る、現地まで足を運ぶ、自分で考える。そのようなことを大切にしています。
 
ただ、素材や技術の制限があるので、考えていることを全て実現させるのも現実的ではないのですが、そのような時でも納得して妥協点を探して使うようにしているんです。
 
また最近は、ものはエネルギーだなと感じていまして。
 
科学的ではないのですが、想いを持って作っているものと、そうじゃないものはやはり製品から感じられるエネルギー、身につけた時に感じるエネルギーが違います。
 
なので、農薬の量がどれくらいだから使う使わないという定量的なアプローチだけじゃなくて、どんな気持ちで農薬を使っているのかを知るという定性的なアプローチが重要だと考えています。
 
ファッションは素材から消費者に届けられるまで、たくさんの人が関わっているからこそ、全てがオーケストラのハーモニーのように、いい関わり合いができるのが一番いいですね。
 

オーケストラのように

 
──最後に、将来の展望を教えてください。
 
今やってることを続けることだと考えています。
 
エネルギーに気付き始めたのがここ一年くらいですので、更に深堀りしていって、1つ1つ素材や作り方、そして自分にとってのエシカルは何かを追求していきたいです。
 
そのように、丁寧に積み重ねることが重要だと思います。
 
万人が同じエネルギーを必要としているわけではありませんから、そのエネルギーを必要としている人が幸せになるお手伝いができればいいなと思いますし、そのような作品を作っていきたいです。
 
先ほどもお話ししましたが、最終的にはオーケストラのように一つ一つの素材や過程がうまくハーモニーを奏でて、良いエネルギーを運んでくれる製品をつくっていきたいと思います。
 
編集後記
 
今回は、ami-tsumuli(アミツムリ)デザイナーの寺本さんがどのような想いでデザインに取り組んでいるのか、お話を伺いました。
 
環境配慮の素材を使うこと、動物の犠牲が出ないこと。どのようなアウトプットをするかも大事ですが、筆者は「何が本物のラグジュアリーか」という問いかけによって生まれた哲学にまた1つエシカルのヒントが隠されていると感じました。
 
当記事が、皆さんにとって「エシカルとは何か」を改めて考えるきっかけになれば幸いです。
 

               
ライター:Sohshi Yoshitaka
Ethical Choiceの事業責任者。2030年までに地球が持続可能になる土台を、ビジネスを通して作ることが現在のミッション。
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