アニマルウェルフェアとは?日本の現状と私たちにできることをご紹介

エシカル

SDGsエシカル消費などの言葉が広まるにつれ、普段口にしているものがどのように生産されるのかに気を配る人が多くなってきました。
 
そんななか注目が集まっているのが、工業的な畜産のあり方を疑問視する声から生まれた「アニマルウェルフェア」という考え方です。
 
この記事では、アニマルウェルフェアの意味や日本の現状を解説します。
 
日常生活でできるアニマルウェルフェアの取り組みも解説しますので、畜産のあり方や動物との共生に関心がある方はぜひご覧ください。
 

アニマルウェルフェアとは何か

 
世界の動物衛生の向上を目的とした国際機関で、2021年現在182の国と地域が加盟する国際獣疫事務局(OIE)は、アニマルウェルフェアを「動物の生死に関わる身体的・精神的状態」と定義(1)
 
この定義を見ると、アニマルウェルフェアは難しいものと感じるかもしれません。
 
ただ、動物に心を寄り添わせ、産まれてから死を迎えるまでのストレスをできる限り少なくし、行動欲求が満たされた健康的な生活ができることがアニマルウェルフェアの原則です。
 
アニマルウェルフェアは、日本では「動物福祉」や「家畜福祉」と訳されてきました。
 
福祉は社会保障を指す言葉として使われることもありますが、本来は「幸福」という意味を持つ言葉。そのため、アニマルウェルフェアにも幸福というニュアンスが含まれているのが特徴です。
 
アニマルウェルフェアは英語で「Animal Welfare」と言うことから、「AW」と表記されることもあります。
 
(1)出典:Animal Welfare
 

アニマルウェルフェアで重要な「5つの自由」

 

 
そもそもアニマルウェルフェアという考え方が誕生した背景には、1964年にイギリスで、工業的な畜産のあり方を批判する本『アニマル・マシーン』が出版されたことがあります。
 
この本に注目が集まり、イギリス政府が立ち上げた委員会は「すべての家畜に、立つ、寝る、向きを変える、身繕いする、手足を伸ばす自由を」という基準を提唱。
 
こうした動きが畜産現場の劣悪な飼育環境や、家畜の角を取り除く除角(除角)やしっぽを切断する断尾(断尾)などの家畜を傷つける行為を改善するための原動力となり、アニマルウェルフェアを確立するための「5つの自由」が1965年に策定されました。
 

  • 空腹と渇きからの自由
  • 不快からの自由
  • 痛みや傷、病気からの自由
  • 正常な行動を発現する自由
  • 恐怖や苦悩からの自由

 
5つの自由では、「適切な食餌が与えられているか」「適切な環境で飼育されているか」「病気にならないよう普段から健康管理・予防をしているか」などの条件が各項目でまとめられています。
 
畜産のあり方を批判する声から生まれた5つの自由は、畜産業のために飼育されている動物や、食肉・皮革などのために家畜を殺す施設である屠殺(とさつ)場にいる動物だけが対象になるわけではありません。
 
人間が飼っているペットや実験動物などのあらゆる動物が対象になります。
 

世界と日本のアニマルウェルフェアの現状

 

 
ヨーロッパで生まれ、世界中の人々に認識されつつあるアニマルウェルフェアですが、国内外ではどのような取り組みが行われているのでしょうか。
 
海外のアニマルウェルフェアの現状から見ていきましょう。
 

海外のアニマルウェルフェアの現状

 
外国では、家畜の工業的な飼育システムの利用を禁止する動きが加速している状況です。
 
たとえば、採卵養鶏業で使用されている鶏の飼育システムの一つに「バタリーケージ」があります。バタリーケージとは、ワイヤーでできた金網の中に鶏を収容し、その金網を連ねて飼育する方式のこと。
 
アニマルウェルフェアの観点から、EUでは2012年から全面禁止となり、オーストラリアやアメリカの一部の州でも禁止されています。
 
バタリーケージの禁止を受けて、鶏舎内の地面に放して飼育する「平飼い」や、鶏舎内外を自由に行き来できる「放し飼い」などのケージフリーに移行する事例が多く見られました。その結果、ケージフリー率はEUでは52%(2)、アメリカでは29.3%(3)となっています。
 
また、養豚業で使用されている飼育システムの一つに挙げられるのが「妊娠ストール」です。妊娠ストールとは、これから子どもを産む母豚を一頭ずつ別々に飼育するための檻であり、母豚は檻の中で方向転換すらできません。
 
バタリーケージと同様にアニマルウェルフェアの観点から、1994年にスウェーデン、1999年にイギリス、2013年にEUで禁止されました。
 
オーストラリアの豚肉業界は、2017年までに自主的に妊娠ストールを廃止すると決定したほか、アメリカのいくつかの州でもすでに禁止されています。
 
(2)出典:EGGS – MARKET SITUATION – DASHBOARD
(3)出典:FACTS & STATS
 

日本のアニマルウェルフェアの現状

 
海外と比べると、日本のアニマルウェルフェアへの取り組みは、十分に進んでいない状況です。
 
2017年に東京都市大学環境学部の研究室が発表した調査結果によると、日本人323人のうち88.6%が「アニマルウェルフェアという言葉を聞いたことがない」と回答(4)
 
この結果から、少なくとも数年前までは、アニマルウェルフェアが広く認識されていなかったことがわかります。
 
世界動物保護協会(WAP)が発表した2020年の動物保護指数(API)によると、畜産動物福祉のランクはA〜GのうちGと最低評価。カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国の7か国を示すG7のなかでは最下位となっています(5)
 
また、グローバルGAPと呼ばれる畜産業や農業に関する国際ガイドラインは存在しますが、アニマルウェルフェアを保証するものではないとされ、日本には現時点で、アニマルウェルフェアに関する実行力のある法規制が存在しません。
 
法規制がないことも受けてか、非営利団体のアニマルライツセンターによると、日本の養鶏場のうちバタリーケージを使用する割合は92%(6)、養豚場のうち妊娠ストールを使用する割合は91.6%となっています(7)
 
こうした現状を受けて、アニマルウェルフェアに対応した家畜飼育に関する指針が公表されたり、アニマルウェルフェアの向上を目指すパンフレットが作成されたりするなど、国レベルでの活動が進められている状況です。
 
(4)出典9割の人が知らない「アニマルウェルフェア」 ~消費者の意識と行動が企業の動物福祉の取り組みを変える~
(5)出典:Welcome to the Animal Protection Index
(6)出典:バタリーケージ:日本の状況を知ろう
(7)出典:妊娠ストールとは
 

家畜福祉への取り組みにおける課題

 

 
日本のアニマルウェルフェアへの取り組みが十分に進んでいない理由の一つとして、コストが挙げられます。
 
アニマルウェルフェアへの取り組みにより必要になる新たな設備や人件費などのコストを、畜産事業者だけでまかなうのが難しいのは事実。
 
そのため海外では、アニマルウェルフェアに取り組む生産者への補助金制度を設け、飼育方法の違いにより販売価格に差が出ないようにしている国や地域があります。
 
しかし、日本ではこうした制度の導入がまだ進んでいません。コストの課題を解決できるような制度を今後整備していくことで、アニマルウェルフェアへの取り組みが少しずつ増えていくことが期待されます。
 

私たちにできること

 
アニマルウェルフェアの取り組みを促進するため、私たちに何ができるでしょうか。
 

食品の生産方法を確認する

 
特に、食品を日頃から購入する消費者として果たす役割は大きくなります。
 
たとえば、商品パッケージや通販サイトから生産方法を確認し、アニマルウェルフェアに配慮した食品を購入することが挙げられるでしょう。
 
牧草のみで飼育する方式「グラスフェッド」を採用した牧場で生産された牛乳と牛肉や、平飼い・放し飼い卵などが、アニマルウェルフェアに配慮した食品の具体例です。
 

認証マークのついた食品を選ぶ

 
また、アニマルウェルフェアの推進・普及を目的に設立された「一般社団法人アニマルウェルフェア畜産協会」は、ヨーロッパの制度などを下地に、アニマルウェルフェアに特化した独自の認証制度を設定しました。
 
2016年に乳牛から運用を開始したこの制度では、5つの自由を守り、各評価項目を80%以上クリアした農場を認証。その農場で育った家畜から生産された食品に、認証マークをつけて販売できるようにしました。
 
アニマルウェルフェア畜産協会は、こうしたアニマルウェルフェアの認証制度を豚や鶏などの家畜にも広げるとしています。
 

出典:一般社団法人アニマルウェルフェア畜産協会

 
買い物中に商品の生産方法をすぐに確認できない場合でも、認証マークがついた商品を積極的に選ぶようにすれば、アニマルウェルフェアの取り組みに貢献できるでしょう。
 

人間と動物が共生する豊かな社会のために

 
ただ単に扱いやすいという理由で家畜を含む動物を利用してはならず、アニマルウェルフェアを無視した行動は、家畜の健康に悪影響を与える可能性があるだけでなく、人間の健康にも悪影響を与えることにつながります。
 
アニマルウェルフェアの取り組みに一個人として貢献することは、難しいと感じる方もいるかもしれません。ただ、まずはアニマルウェルフェアを正しく理解し、家畜への考え方を見直していくことが大切ではないでしょうか。
 
そしてこの記事が、アニマルウェルフェアへの理解を深めるきっかけになれば幸いです。
 
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

               
ライター:Yuka Hirose
ベトナムとカンボジアで行った教育関連の活動をきっかけに、国際協力や環境問題に興味を持つ。大学では化学を専攻し、バイオマスプラスチックについて研究。現在はライター・英日翻訳者として活動。
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