パーム油が使われている食品は?危険性と森林破壊との関係について

ポテトチップス、カップラーメン、チョコレートなど、多くの人に好まれる食品に危ない油、パーム油が含まれていることをご存知でしょうか?
パーム油(パームオイル)は、安価で使用しやすく、食品業界から高い支持がある一方、パーム油の使用が環境問題を深刻化させている側面があります。
その影響は健康への被害をはじめ、熱帯林の減少や、先住民の暮らしに関わる場合も。
では一体、なぜパーム油は市場に出回り続けてしまうのでしょうか?
今回の記事は、パーム油やパーム油が引き起こす問題、なぜパーム油が多く使用されるのか、そして私たちに何ができるのかご説明します。
パーム油とは?
パーム油(英訳:Palm Oil)は、アブラヤシの実から採れる植物油のこと。
アブラヤシはヤシ科に分類される植物ですが、ココナッツのヤシとは、また異なる種類に分類されます。日本が輸入するアブラヤシの、主な生産地は、マレーシアやインドネシアです。
パーム油は、世界で最も多く使われる植物油としても有名なもの。食用の油だけではなく、例えば洗剤や化粧品など、身の回りの製品に使われています。
日常を見渡せば、様々なもの含まれているはずのパーム油ですが、今までご存知なかった方も多いのではないでしょうか?
それは、パーム油には色々な呼び方があるからで、原材料の欄を見ても、一目でパーム油と判断することは難しいからなんです。
パーム油の多様な呼び名
パーム油を想像しにくい名称が数多くあることから、「見えない油」とも呼ばれるパーム油。
パーム油がどのように呼ばれている、または原材料の欄に記載されているかというと、下記の名称が頻繁に使われています。
- 植物油
- 植物油脂
- 界面活性剤
- マーガリン
- グリセリン
- ショートニング
パーム油について多少知っている方は、植物油という記載から想像できるかもしれませんが、カタカナでつけられた名称をパーム油に紐づけることは難しいでしょう。
では、上記の名称のように姿を変えて、パーム油はどんな商品に使用されているのでしょうか?
パーム油を含む商品とは?
食品はもちろん、洗剤や化粧品などの日常消耗品などに含まれている、パーム油。
こちらでは、食べ物と日用品に分類し、パーム油とそれぞれの関係をご説明します。
食べ物とパーム油
ポテトチップス、カップラーメン、チョコレート、ファストフードなど、様々な食べ物に使用されているパーム油。
なんと、世界で8割のパーム油が食品に使われているんです。
コンビニやスーパーなど、気軽に立ち寄れる場所で販売されている身近な食品に、パーム油は使用されています。
日用品とパーム油
また、パーム油が使われている日用品としてよく知られるのは、洗剤と化粧品です。
最近は、持続可能な方法で生産されたアブラヤシからのみ採れたパーム油を使用する企業が増えてきましたが、2000年前後は洗剤や化粧品などがパーム油を含むことはあまり知られていませんでした。
洗剤業界でパーム油にまつわる問題解決の先駆者としてしられるのが、SARAYAという企業で、化粧品だと資生堂が率先して対策を取り組んでいます。
これらの企業がどんな取り組みをしているかについては、記事の後半でご紹介しますので、最後まで読んでみてください。
食品や日用品に頻繁に使用されるパーム油ですが、大量に消費される背景にはパーム油が持つ魅力にあります。次に、パーム油が様々な商品に含まれる理由についてご説明します。
パーム油が使われる理由とは?
なぜ、パーム油が多くの商品に使われるかというと、パーム油には万能かつ生産性が高く、安価で取り引きされるというメリットがあるからです。
パーム油が万能である理由と、安価で取り引きされる理由について、分けてご説明します。
パーム油は多様に使用できる万能油
パーム油は、固めても溶かしても使える万能な油で、この特徴は食品メーカーにとって、大変魅力的なものです。
例えば、マーガリン、チョコレート、アイスクリームなどはパーム油を固めて使用し、ポテトチップス、カップラーメン、フライドポテトには、溶かして使用することができます。
他の植物油では補えない特徴であるため、未だに、パーム油を使用する食品メーカーが多いことが現状です。
パーム油は生産性が高く安価で取り引きされる
パーム油を栽培する際の特徴として、一度植栽すれば年間を通し、絶えず果実の収穫が可能であるという点があります。
他の油の原料となる植物とは異なり、生産面積当たりの油の生産性が極めて高いということも特徴の1つです。例えば、同じ面積での油の生産量は大豆の約10倍とも言われます。
このように、パーム油は生産性が高い植物油であるため、植物油の中でも最も安く取り引きすることが可能です。さらに、持続可能エネルギーである、バイオディーゼル燃料として活用することもできるため、将来的に大量生産されることが予想されています。
ここまでご説明したように、多くのメリットを持つパーム油。このまま使い続けることができれば、便利な生活が継続できるようなイメージがありますが、「危険な油」と呼ばれる理由があるんです。
次に、パーム油がどのような影響を引き起こすのかについて、ご紹介します。
パーム油が引き起こす影響と問題
パーム油の栽培が拡大すると、環境問題が深刻化するだけでなく、人への影響も出ることがわかっています。具体的には下記の6つです。
- 熱帯林の焼失
- 泥炭地の破壊
- 森林・泥炭火災の増加
- 野生生物の減少
- 人への影響
- 生産者が直面する問題
それでは、ひとつずつご説明します。
熱帯林の焼失
地球の環境を守ってきた熱帯林は、パーム油の供給を増やそうと、大規模にアブラヤシ農園として開拓されました。
2000年から2010年の約10年間、1時間に東京ドーム127個分に相当する森林が消失したということがわかっていますが、その要因の1つがアブラヤシ農園の拡大です。
泥炭地の破壊
地球上の陸地の、3%のみを占める泥炭地ですが、蓄えている炭素量は世界全体の森林が吸収できる量をゆうに超えてしまいます。
アブラヤシ農園の開拓過程で、泥炭地が破壊され、温室効果ガスが空気中に放出されていることが現状です。
森林・泥炭火災の増加
森林面積が減少したり、泥炭地から炭素が放出されたりするだけではなく、アブラヤシ農園を開発のために火入れをする現状があります。開拓予定の面積だけでなく、火災が広範囲に及び、大規模に森林や泥炭地が失われる原因です。
煙害として、人体への健康被害も危ぶまれています。
野生生物の減少
パーム油の供給量を増やすために、無計画でアブラヤシ農園を拡大することは、熱帯林を破壊し、生物多様性をも崩壊させることにつながります。
野生の生き物から生息地、食べ物を奪うことになる熱帯林減少は、絶滅危惧種を増やすことにもなるため、特に問題視されている課題です。
人への影響
まず、森と密接して暮らす先住民の人々や、森林の周辺地域の住民は、アブラヤシ農園の開発のために、居住地を失う場合があります。
また、パーム油による健康被害の懸念も。パーム油には、大量の飽和脂肪酸が含まれており、過剰に摂取すると、心筋梗塞や糖尿病などのリスクが増加してしまいます。
生産者が直面する問題
アブラヤシの実は、大企業が運営する大規模な農園だけでなく、多くの小規模農家によってもまかなわれており、世界中のパーム油の約4割の生産を担っています。
そんな小規模農家の多くが、アブラヤシ農園の開発が影響する様々な課題に対応できていないという現状です。
持続可能なパーム油が必要とされる
ここまで、パーム油を使うことで生じる様々な影響についてご説明しましたが、今すぐにアブラヤシの生産をやめることは、最適ではありません。
実は、パーム油の使用をやめることでも、問題は出てしまいます。
例えば、パーム油の使用を抑え、菜種や大豆など別の原材料に頼り安定した供給量を目指すことは、現在あるアブラヤシ農園と比べより大規模な土地を必要とします。
この過程で、より深刻な森林破壊が生じる恐れがあるのです。そのため、今社会に求められていることは、持続可能な形でアブラヤシを生産すること。
例えば、環境や熱帯雨林を保護するために、国際規模の取り組みとして挙げられるのがRSPO。
RSPOとは?
RSPOとは、簡単に言うと、持続可能な形で生産したアブラヤシの実由来のパーム油だけを選定する認証制度です。
正式名称 | 持続可能なパーム油のための円卓会議 |
---|---|
英訳 | Roundtable on Sustainable Palm Oil |
目的 | 持続可能なパーム油の生産に注力し、広め、 持続可能なパーム油が基準となる市場をつくること |
パーム油の生産、販売、消費、環境保護などに関わる7つのステークホルダー(利害関係者)によって構成されるNPO(非営利組織)です。
また、「RSPOの原則と基準」というものがあります。法に違反していない生産を経て、経済的に持続可能で、環境へ優しく、社会に有益であることなどの要点がまとめられた原則です。
これらの原則に基づいて、RSPOの認証制度は成り立っています。
RSPOの認証制度とは?
RSPOから持続可能なパーム油として認証されるまでには、以下の2つの認証過程が存在します。
- 生産段階での認証(P&C認証)
- サプライチェーン認証(SC認証)
認証の流れは、アブラヤシの農園から始まり、パーム油が完成するまでの全ての工程を認証するものです。それぞれの工程を審査することで、全体を管理することが可能となり、パーム油が最終的に出来上がるまでを追跡することができます。
RSPOが国際社会に広がるにつれ、日本でもRSPOに加盟する企業が増加しています。
近年日本企業のRSPO加盟が増加
日本の企業においては、洗剤や化粧品などの日用品を扱う企業が、主にRSPO認定のパーム油を積極的に導入しています。
SARAYA
SARAYAは、洗剤や石鹸を主に扱うメーカーです。同社は、野生の生き物や森林を保護しながら、生産者や消費者の生活も維持していくために、2004年から「ボルネオ環境保全プロジェクト」を開始しました。
2019年11月には、国内販売の製品、全てにおいてRSPO認証を100%取得。今後の展望として、国内外のグループ全体の製品で100%RSPO認証を取得することを目標に掲げています。
資生堂
日本の大手化粧品メーカーである資生堂は、2010年にRSPOに加入。それ以降、積極的にRSPO認証のパーム油の生産を支持しています。
パーム油の持続可能な調達に努める同社は、「2018 年実績による環境・社会面に配慮したパーム油の日本企業スコア」が製造業・小売部門でトップでした。
このように、製造側が持続可能なパーム油を積極的に導入する努力をしている中で、私たちには一体なにができるのでしょうか?最後に、持続可能なパーム油を促進することで、地球を守るために、ひとりひとりができる貢献をご紹介します。
商品の背景を想像してみよう
パーム油が市場に広く出回り、影響を及ぼしてしまうことを防ぎ、持続可能な社会をつくるためにできることは、商品の背景を想像するということです。
生産や製造の背景を想像し、持続可能なパーム油は果たして使用されているかを、1度でも立ち止まって考えることが大切です。
商品の背景を想像した後にできるアクションが、RSPO認証マークがあるものを買うこと。
同じ効果が期待できる製品を買うときには、RSPO認証マ―クがついている方を選んでみてはいかがでしょうか。
さいごに。日常の便利と地球、どちらも守るために。
万能であるために、日常のさまざまな場面に使われるパーム油。今回の記事で伝えたかったのは、パーム油を使用することを全くやめようということではありません。
ただ、従来の方法でパーム油の生産を続ければ、自然が傷ついてしまい、人間にも影響が及んでしまいます。
そのため、当記事を通しパーム油による影響を理解することができ、少しでも持続可能なパーム油を選ぶことを意識する回数が増えれば幸いです。
日常の便利と地球の両方を守る行動をしてみませんか?
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。





